この本を手に取って、ページを開いたとき思わずつぶやいたのが「なんてきれいな料理なんだろうか」である。
まるで、お皿にデザインが施されているかのごとく、7色の野菜がお皿の上に盛り付けられ、バーニャカウダーのソースが川のせせらぎを想像させる。
そして中央にはワカサギが2匹仲良くたわむれるように泳ぎまわる。
そんな、素敵な一風景を思い描いてしまうような料理がいくつも紹介されている。
また、ベーシックで伝統的な料理を「クラシック」とし、クラシックをベースにインスピレーションを得たものや展開したものを「モダン」として紹介している。
この発想の仕方がとても面白い。それでいて完成度が抜群に高くきれいなのだ。
写真越しだというのに「絶対にこれうまいやつだ!」というのが伝わってくるのである。
きっと、常に厨房に立ち続け、長年にわたって料理を肌に感じ続けてきた佐藤シェフにしか生むことの出来ない料理のアイデアとクオリティーなのだろう。
そして、この本には佐藤シェフが30年以上にわたって、イタリア料理と真剣に向き合ってきた経験と技術と知識がふんだんに詰まっている。
いや、きっとこの本に載っている内容ですら、佐藤シェフの持つすべてのほんの一部分でしかないのであろう。それくらいに、料理に無駄がなく、完成度が高いのだ。
ぜひ一度この本を手に取ってもらって中をのぞいてみてほしい。
あなたの知らないイタリア料理の世界が広がっているはずだ。
この本は誰が書いているの?お店は?
この本の著者である「佐藤護」シェフは、17歳で料理の世界に入り、イタリア料理の超名店である「サバティーニ」にて研鑽を積む。
その後、イタリアに渡り、4年半かけて北から南、さらには3つ星リストランテからトラットリアまで14軒の厨房で腕に磨きをかけた。
たった4年半で14軒ものお店を回り、技術を学べたのは、日本での下積み時代で確実な技術を得たからこそだという。
帰国後は、横浜の「オ プレチェネッラ」、中目黒の「リストランテ カシーナ・カナミッラ」でシェフを務め、2013年に独立。現在は横浜駅近くの「トラットリア ビコローレ ヨコハマ」にてオーナーシェフを務め、今でも厨房に立ち続けている鉄腕シェフだ。
佐藤シェフのこだわり
イタリアの食文化のスピリットとは何か、それは
「その土地で取れた食材を使うこと」
と佐藤シェフは語っている。
イタリアを感じさせるようなチーズやオリーブオイルを使いながらも、メインになるものは日本の食材を使っているのだ。
それでいて、着地点は確実にイタリアの風を強く感じられるものに仕上げていく。
これこそが佐藤シェフの凄さである。
なぜ、イタリアの風を感じられる料理に仕上げることができるのか、というと4年半にわたるイタリアでの修業期間があるから、なのだろう。
イタリアに渡り、土地や空気を肌で感じ、イタリアの食材と直に触れあい、料理の技術と味を舌で覚えて、必死に料理を学んだ、そのすべてが根本にあるから、ぶれがないのだ。
上っ面だけイタリア料理を学んだ、「なんちゃってイタリアン」を作るシェフとは「月とすっぽん」以上に差がある。
そこで、料理本の中身を見てほしい、
「パッパルデッレ 猪のラグー」がクラシック伝統的な料理と紹介しているのに対し「ピチ トスカーナ パンフォルテ風味 和牛のラグー」をモダン進化系の料理としている。
猪のラグーはイタリアトスカーナ州の伝統料理であり、それをソースにしたパスタがこの「パッパルデッレ 猪のラグー」である。
これに対し進化系の料理は、肉を和牛に変え、トスカーナ州の「ピチ」というパスタを使い、トスカーナの伝統菓子「パンフォルテ」を彷彿させる、スパイス、ナッツ、オレンジピールを使ったラグーに仕上げているのだ。
さらには噛み応えのあるピチと、噛めば噛むほどに味の深みを追求できるパンフォルテ風味のソースとの相性は抜群なのである。
トスカーナ州を軸にし、さらにおいしさを追求した進化が佐藤シェフによってなされたのだ。
このように、根底にしっかりとしたイタリア料理をもとに料理を発展させているので、本格イタリア料理から全くぶれることが無いのである。
イタリア料理を目指す方にとっての本物の教科書
この本は写真がとてもきれいにとられていて、どれも美味しそうに見えるのだが、いざ自分で作ろうとなるとかなり難しい内容になっている。
初心者むけというよりは、中・上級者向けのレシピになっているように思う。
けれど、イタリア料理人を目指すのであれば、必ず一冊手元に置いておくべきだろう。
なぜなら、イタリア料理に30年以上情熱を注ぎ続けた佐藤シェフの想いが詰まっているからだ。
レシピだけではなく、要所要所に書かれた佐藤シェフのメッセージを読み取り、自分なりに解釈し、これからの料理人生に活かしてほしいのだ。
今は分からなくとも、10年後、20年後に納得できるようなメッセージがいたるところにちりばめられている。それくらい、レベルの高い内容が書かれているように思う。
そして、この本に書かれている内容を本当の意味で読み取ることができるよう、日々イタリア料理に向き合っていく必要があるのだと思う。
これで「イタリア料理の新しい教科書」著:佐藤護 レビュー を終わります。
料理をもっと上手く作るためまとめはこちら