樋口宏江さんは、志摩観光ホテルの総料理長を務めていらっしゃる女性料理人です。
先日、TVを見ていたら樋口さんの特集が放送されていました。
僕も曲がりなりにも料理の仕事を経験して、料理人の現場というものを見てきた人間です。
もうね、とても感動しました。
樋口さんの料理に対する真面目な向き合い方、人生すべてを料理に賭ける姿勢、料理だけでなく仕事、人間関係全てに紳士に向き合う姿。
見ていて何もかもがカッコ良すぎました。
凄すぎて、僕には絶対に歩むことのできない人生です。
性別とか関係なしに、あれほどまで真剣に料理に向き合える人というのは、素直に尊敬できます。
総勢80名の料理人を指揮し、ホテル内の5つの店舗の味に責任をもつことが志摩観光ホテルの総料理長としての務め。
女性として初の総料理長を任されている、樋口さんの生き様があまりにもかっこよかったので、紹介していきます。
女性が料理人として活躍できる場が少しでも増えるよう、少しでも勇気が出ればなと思います。
女性料理人樋口宏江さんとは
現在、志摩観光ホテルの総料理長を務める女性料理人です。
二人の男の母親でもあり、家庭では主婦を、職場では総料理長をこなすスーパーお母さん。
樋口さんにしか生み出すことのできない料理は、『樋口ワールド』と呼ばれることもあるんだそう。
料理人を志した理由として、母親が毎日作ってくれる温かな料理だそうです。
高校を卒業後は大阪の調理師専門学校へ入学。就職先は、地元の志摩観光ホテルへ。
樋口宏江さんの料理に対する思い
樋口さんがおっしゃってたことで、こんな言葉があります。
「伊勢海老は、伊勢海老以上になり得る。
火を通すことで、伊勢海老以上の美味しさを引き出せる。
その食材を余すことなく使って一皿を仕上げる。
唯一無二。
ここでしか食べられないものを」
この言葉の意味は、先代の総料理長であった高橋忠之さんからの教えだそうで、『火を通して新鮮、形を変えて自然』という理念からなるそうです。
この言葉が出るということが凄すぎます。
料理人として、目指さなければいけないとはここだなと。
理想の料理ってのは、一皿の上に無駄なものがあってはいけないし、食材も無駄にせず全て使い切らなければいけないのです。
樋口宏江さんは伝統にとらわれない
かといって、先代の料理を重んじて、その通りに料理を作り続けるかというと、そういうわけではないのです。
樋口さんは、今の時代にあった料理というものを、自分で考え、新しい本当の美味しさというものを追求していくのです。
例えば、アワビの調理方法。
昔は、大根と一緒に煮ることで、柔らかさを保ったまま旨味を引き出していたそうなのですが、それを、温度管理がしっかりとできるオーブンを使い、適切な時間と火入れを行うことで、香りを最大限まで引き出し、アワビを1番美味しい状態に仕上げるように変えました。
先代から、料理に対する理念はしっかりと引き継ぎ、今できる最高の料理を提供しようと試行錯誤を重ねた結果なのです。
樋口宏江さんが大事にしている言葉
見ていて思ったのは、ものすごく前向きで、常に先を見越して考えて行動しているなということ。
先を考えて、行動している人間は強いです。
どこにいっても通用するし、いつの時代も必要される人間になります。
昨日よりも今日、今日よりも明日
「守るだけでは多分現状維持だと思います。
さらなる喜びというか、お客様の期待を上回らなければ
次に繋がらないと思う
今日やったことがまた明日さらに
少しでも磨き上げられて
昨日よりも今日作ったものの方が
素晴らしいと思えるようなものを作っていかなければならない」
厳しい料理の世界で生き抜いてきた人間が言う言葉は、重みがありますね。
知っているんですよね、チャンスってのは一回しかないことを。
そして、そのチャンスを逃したら、次いつ来るかわからないチャンスのために、日々努力し続けなければいけないと言うことを。
一生懸命やるだけです
「不誠実なことって自分の中で嫌なんですね。
例えばこれだけの力がないとしても
どれだけ一生懸命にやるかとか
それに対して真剣に向き合うかって言うことが大事だと思うんで
技術がなくても
どれだけ丁寧にどれだけ一生懸命にやろうか
って言う気持ちの方が大事で
思いって伝わると思うんですよ」
樋口さんの人柄が、この言葉にすべて詰まっている気がします
認められて、成功する人ってこう言う人なんですよね。
才能があったわけではなかったと思うんです。
自分のできることを精一杯やり続けて、考え続けて、自分の限界に挑み続けた結果、今があるだけで、多分、樋口さんは何か特別なことをしてきたって言う自覚はないと思います。
ただ、ただ、20年近く、料理を一生懸命頑張り続けてきたんだろうなって思います。
樋口宏江さんのこだわり
樋口さんの働いている姿を見ていて、思ったことは、料理に対して絶対に手を抜かないんですよ。
料理を美味しくするためならなんでもやる。
新人がやるような、細々とした作業も総料理長自らが空いた時間を見てやりますし、キッチンペーパーが倒れていたのを見て、すかさず自分で直しますし、徹底して真面目に取り組むんです。
本当にかっこいいんですよ。
樋口さんいわく
「大変なこととか、めんどくさいなって思うことって
誰かがするわけじゃないですか。
誰かがやれば他の人が気持ちよく進むんだったら
私がやればいい」
現場のトップに立つ総料理長が、こんな素敵なことを思って働いてくれるなら、下で働いている人たちは働きやすいでしょうね。
きっと、他の上司は厳しくて仕事は大変だと思いますけど、トップに立つ人が声をかけてくれるだけで、若い料理人は励みになるますよね。この人のために頑張ろうって。
生産者を、地元を大事にする
樋口さんは、空いている時間を見て、地元の生産者さんの畑に顔を出しに行ったりします。
訪れたのは、みかん畑。
そこで。捨てられるはずの青いままのみかんを見て、「もったいない。美味しいし料理に活かせるのでは。」と。
料理人として地位が確立しても、こういった生産者に寄り添う姿勢というのは素敵ですよね。
「作られる方の思いをしっかりと理解すること
最後にお客様のお口に入る状態にするのは私たち料理人なので
最終的には私たちがその思いを
すべての思いを乗せなければいけないと思います。
自分の思いだけではないお皿」
捨てられるはずだった、熟す前のみかんを使った料理を生産者に食べてもらって、すごく喜んでるんですよ。
満面の笑みで
「美味しい。想像を超える。
いいもん作りますよ。間違いなくいいもん作りますよ。」
って。樋口さんの期待に応えられるよう、生産者さんも感銘を受けるんですね。
こうして、地元のつながり、人と人とのつながりを築いていく。
これこそが、『樋口ワールド』なのではないのでしょうかね。
女性料理人としての葛藤
樋口さんが欠かさずしていることとして、仕事の合間をぬって子供達の夕飯を作りに帰ります。
夕方ごろに仕事を少し抜け出し、子供達のために料理を作り、また仕事へと向かう。
仕事を抜け出せる時間はたったの40分だけ。
仕事が終わるのは深夜。次に会えるのは翌日。「おやすみ」といって別れを告げます。
「少しでも一緒にいる時間が欲しいし
それを子供達に伝えたい
私は料理でしか表現できないので。」
子供達には絶対に伝わっているはずです。
今は分からなくても、いずれ母の偉大さが分かる日が必ず来ると思います。
少なからず、僕は樋口さんの仕事っぷりを見て心を揺さぶられました。
女性だから優遇されているのではないか
樋口さんの料理に真摯に向き合う姿は、入社当時の料理長にも認められ、あまりにも仕事熱心なので「バケモノ」とまで呼ばれていたそうなんですね。
当然、重要な仕事を任されることも増えてくるわけで、そうすると、周りからの嫉妬がまとわりつくようになります。
「女だから料理長に可愛がられている」
とまで言われることもあったそう。
相当なプレッシャーの中で働いていたんだと思いますと、当時を知るマネージャーも語っていました。
けれど、樋口さんは負けません。
樋口さんは、無類の負けず嫌いなので、すべての面倒な仕事を自分でやり、誰よりも厨房に長くい続けたんです。
これ、すごいことですよ。
きっと、樋口さんにしかできないことだと思います。
樋口宏江さんにとって、プロフェッショナルとは
「覚悟を持ってその道に進み
常に挑戦し続けること。
挑戦し続けるものを
具体的に形として表現できる
力を持っている人のこと。」
今回、この樋口さんの生き様を見させてもらって、感動しました。
泣けました。
料理人って、全てを犠牲にして料理に尽くしても、帰ってくるものって、お客さんの笑顔だとか、美味しいって言う言葉だとか、決して形に残るものではないと思うんですよ。
総料理長ですから、それなりにお金をもらっているとは思いますけど、お金を使う時間がないですからね、本当に料理に全てを懸けているんです。
好きなんでしょうね。料理を作ることが。
かっこいいですよね。
僕はそれを貫くことができなかった、楽な道へとそれてしまった。
樋口さんは、本当に尊敬すべき人だと思いますし、これからも頑張って欲しいですね。
くれぐれも体には気をつけて、さらなるご活躍を期待しています。
↓僕が経験した料理人あるあるを紹介しています